大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)6273号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕原告Xが被告Yに対し賃貸している家屋(五戸建一部二階建家屋の内平家二戸の部分)の賃料について、右家屋の床面積が三〇坪を超え、かつ、賃借家屋の内Yが営業用に使用している部分が七坪を超えることを理由に、地代家賃統制令の制限を受けないことを前提として賃料の増額を申し入れ、右増額賃料不払を理由に賃貸借契約を解除して家屋の明渡しを求め(予備的に正当事由による解約申入を理由としている。)たのに対し、Yは、賃借家屋の床面積が三〇坪未満にして、営業用に使用している部分が七坪未満であるから、本件賃料については前記統制令の制限を受け、従つてXの増額申入れは過大なものであり無効であると主張した。
判決は、次のように判示して、本件賃料については前記統制令の適用があり、右統制額を著しく超えた賃料増額は無効であるとして、Xの主張を排斥した。
〔判決理由〕 一被告が昭和二三年頃から原告より本件家屋を賃借し、これを使用して飲食店営業をしていること、昭和三七年五月当時における本件家屋の約定賃料が月額一、六八〇円であつたこと、原告が被告に対し、その主張の通り賃料延滞を理由とする賃貸借契約解除の意思表示をし、ついで、正当事由による解約申入をしたことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告が、同三七年六月一日、被告に対し、本件賃料を同日から月額八、〇〇〇円に値上げする旨意思表示したことは、((証拠))によつてこれを認めることができる。
二よつて、右値上げ申入の適否、及び、増額を前提とする解除の適否等について考えてみる。
(一) 原告は、本件家屋の床面積が三一・九四坪にして、かつ、被告が営業用に使用している部分が九・八一坪であるから、本件賃料については統制令の適用がないと主張するのに対し、被告は、本件家屋の床面積が三〇坪未満にして、被告が営業用として使用している部分も約六坪に過ぎないから、本件賃料については統制令の適用があると主張するところ、本件家屋の床面積が三一・九四坪である旨記載のある。((証拠))は、成立に争いのない((証拠))と対照してこれを措信することができず、また、被告の営業用使用部分が九・八一坪であるとの主張に副う((証拠))も、((他の証拠))と対比して措信し難く、他に右原告の主張を認めるに足る確証がない。却つて、右各証拠に弁論の全趣旨を綜合すると、本件家屋二戸(平家)を含む五戸建一部二階建一棟の家屋の床面積が一階において二七・七一坪、二階において九・三九坪にして、その内本件家屋の床面積が一八・四五坪であること、及び、本件家屋の内被告においてその営業用に使用している部分が合計九・四八坪であるけれども、その内カウンター南側の線より北側の部分三・八一坪が店舗として専用され、右線より北側の部分五・六七坪が炊事場、物置、土間として、営業用に使用するとともに被告家族の居住用に使用され、両者の使用比重を確認することができないことが認められ、右認定を覆えすに足る的確な証拠がない。
(二) ところで、賃料について統制令の適用が除外される建物は、(1)、延べ面積が三〇坪をこえる建物(当該建物の延べ面積から賃借部分の床面積又は賃借部分の床面積の合計を差引いた部分の床面積が三〇坪以下である場合を除く。)及び、(2)、店舗、飲食の用に供する建物と規定されている(統制令二三条二項本文、第三、第四、第七号)が、右(1)にいう建物とは、独立の不動産として取引の対象となり得る最小単位の建物を指すと解すべきであつて、本件家屋のようないわゆる棟割長屋にあつては、一棟の長屋全体をいうものではなく、最小取引単位たる一棟の内の各一戸を指すというべきであり、又(2)の建物であつても、事業供用部分の床面積が七坪以上にして、居住用部分が三〇坪以下であり、かつ、借主が居住し、右事業を営んでいる場合には統制令の適用を受ける旨規定されている(同条同項但書後段、第三項、昭和三一年建設省令第二四号による改正後の統制令施行規則第一一条)。
(三) これを本件について考えてみると、本件家屋は五戸建一部二階建一棟のいわゆる棟割長屋の内、平家建の二戸にして、その床面積が合計一八・四五坪であるから、右一棟の二階部分を含む床面積が三〇坪を超えるからといつて、本件家屋がその賃料につき統制令の適用を除外される(二)(1)の建物に該当するといえないことは、前説示によつて明らかなところであり、又、(二)(2)の併用住宅として統制令の適用が除外されるかどうかについては、事業供用部分の内の一部が事業用と居住用に使用され、その比重を明確にし難い本件においては、供用部分の二分の一が事業用に、残余の部分が居住用に使用されているものとして使用坪数を算出すべきであると解すべきであるから、本件においては、前示共用部分五・六七坪の二分の一、即ち二・八三五坪と、事業専用部分三・八一坪、以上合計六・六四五坪が事業用部分であるといわねばならない。従つて本件家屋の事業供用部分は七坪以下であるというべく、その賃料については統制令の適用を受けるといわねばならないところ、本件値上申入当時たる同三七年六月一日頃における右統制賃料月額が一、四四六円であることが、前掲乙第一号証による基礎金額から別紙計算書(二)の通り算出される(本件家屋につき都市計画税が徴収されていることについては、これを認めるに足る証拠がない。なお、原告主張の別紙計算書(一)による金額は、計算違いがある。ちなみに計算書(一)の算式は都市計画税が徴収されていることを前提としているようであるが、右算式による賃料月額は金一、七四六円となる筈である。)
(四) そうすると、本件賃料につき統制令の適用がないことを前提としてこれを統制賃料額を遙かに上廻る月額八、〇〇〇円とする旨の原告の値上申入が無効であり、従つて、適法に増額されたことを前提として、これが延滞を理由とする本件解除の主張、ならびに、解除後の損害金の請求は理由がなく、又、解除の日までの前示約定賃料を被告が弁済のため供託している(この点当事者間に争いがない)本件では、右賃料の支払を求める部分も理由がない。)(下出義明)